これからの図書館: まちとひとが豊かになるしかけ

冒頭、著者が神奈川県海老名市の中央図書館長として関わったイベントに驚く。2014年４月プラネタリウムを使ったボサノバコンサート。パネル者品展示と島本脩二氏（編集者）の講演会５月図書館と出版社をつなぐシリーズ開始。初回はみすず書房五代目社長の持谷寿夫氏の講演６月下北沢のビールの飲める本屋B&B店主内沼晋太郎氏の講演会。ジャーナリスト猪谷千香さんとのトークバトル。※本書の中で谷一氏と猪谷氏の対談を収録）７月「製本のチカラ」展示とワークショップ。夏休み宿題お助け講座、新聞づくり、読書感想文、調べ学習講座、「怪談絵本」原画展８月こわいお話し会＋夜の図書館ツアー、仕掛け絵本作り９月ぬいぐるみのお泊り会、教育ジャーナリスト品川裕香さん講演会１０月ビブリオバトルフェス。鉄道模型展示。１１月ひと箱古本市、海老名のコメと酒講演会、絵手紙講座など老朽化した図書館でこれができるなら、どこの図書館でも職員らの努力次第で同じことができるのだろうか？佐賀県武雄市のツタヤ図書館に触れてはいても、批判していないのは物足りないとしても、これだけ日本中の図書館を誉めまくられては、巻末の「私的おすすめ図書館」にある全ての図書館を巡る旅に出たくなってしまう。図書館が行政で軽く見られるのは、出先機関としてしか見られていないからであり、今でも無料貸本屋だと行政も議会も思っているように見える。民間委託にしても、著者が会長であるＴＲＣでは、その自治体の智慧の集積として、本当にキャリアを積める職となっていようか？ＴＲＣが委託を受けている大阪市では、分館に市の職員は館長としてしかおらず、ＴＲＣ職員にはレファレンスもさせず、本の整理屋としてしか活用させていない。同じＴＲＣ委託でも、和泉市のように市民には自動貸し出し機でセルフ貸し出しをしつつ、レファレンスも受ける手法に人間らしさを感じる。智慧の集積を、府県の広域自治体図書館に任せっきりにしていていいのだろうか？予算のない中で、図書館が市民の憩いの場や居場所として、災害発生後にも活用できる様子を本書は書く。確かにそれを行った職員は、素晴らしい。だが、それをスーパー司書の力だとすれば、過度の負担がかからないか心配する。システムの中でそのような知恵が回り、図書館へと光が当たることを本書でも期待されており、それが現実の図書館運営と乖離している姿を見ると、ないものねだりなのか、悲しさを誘ってしまう。これを手に取るのは、図書館ヘビーユーザーか関係者だろうが、真に読まねばならんのは、市長や議員で、それを市民へと広げ、市民と司書が協力してこそ本書で紹介されているような未来像としての図書館へと、我が街の図書館も変化していくのだ。